イギリスの子どもたちをプログラミングに慣れさせるために、BBCが100万台の‘Micro Bit’コンピュータを無償配布
1980年代の初めに“コンピュータリテラシプロジェクト”を掲げ、そのための教材としてのマイコン’BBC Micro‘を作らせたBBCが、今度は’Micro Bit’と名づけた、小型のボード型コンピュータ(上図)を作り、イギリスの11歳の学童に100万台を無料配布する、と発表した。配布は、2015年の秋に始まる。
この新しいハードウェアプロジェクトは、同局が今あたためている企画、‘Make It Digital’〔仮訳: デジタルにしようよ〕の一環であり、その目的は“新しい世代にプログラミングとデジタル技術による創造力を持たせること”だ。今イギリスには、昨今のデジタル経済の成長と、子どもたちの教育の現状とのあいだに、ギャップがありすぎる、という深刻な問題意識がある。BBCは、そのギャップをうめる努力の一端を、担おうとしている。
BBCはチップメーカーのARMやNordic Semiconductor、Microsoft、Samsungなど25あまりの企業や団体とパートナーして、この企画を推進しようとしている。そしておもしろいのは、80年代のBBC Microが抱えた問題を解決しながら、進もうとしていることだ。
1980年代のパーソナルコンピュータは値段が高すぎて、コンピュータプログラミングの民主化を推進するツールにはなりえなかった。一つの学校が買う台数も、ほんの数台にとどまっていた。ぼくが今でも思い出すのは、一人の児童生徒がBBC Microに触(さわ)れる時間が、あまりにも短かったことだ。まるでマイコンの上で、メインフレームの時分割(タイムシェアリング)をやってるみたいだった。ぼくはたまたま、親が教師だったから、学校の休みの日にはBBC Microを借りることができた。でもほとんどの時間、Chuckie Eggで遊んでただけだけど。おっと、話が脱線してしまった。
もうひとつの問題は、入札で複数のコンピュータメーカーの中から選んだとはいえ、BBCがBBC MicroのメーカーとしてAcorn Computingを選定したことが、競合企業を怒らせた。とくに怒り狂ったZX SpectrumのファウンダSir Clive Sinclairは、すでに同じようなコンピュータがこれから市場に出回ろうとしているのに、なぜわざわざ新たに作るのか、と異議を唱えた。
一見するとMicro Bitにも同じことが言えそうだが、でも、企画に関するBBCの広報誌は、このデバイスはあくまでも、そこからさらに、ArduinoやRaspberry Piなどの、高度な教育的コンピューティングやホビーコンピューティングに入っていくための‘入り口’にすぎない、と強調している。なんといっても、Raspberry Piともなると、すでに500万台も売れているのだ。
Micro BitはLEDをディスプレイとする小さくてウェアラブルなデバイスであり、子どもたちはそれを、いろんなやり方でプログラミングできる。それはスタンドアロンなプログラミング入門機で、子どもたちはこれをコンピュータにつないで、すぐにプログラムを作り始めることができる。
それは低年齢の児童にプログラミングへの興味を持ってもらうためのスタート地点として設計されており、ここからさらに、もっと複雑なデバイスに移行していくことができる。そのためMicro Bitは、ArduinoやGalileo、Kano、Raspberry Piなど、そのほかのデバイス、そしてほかの子のMicro Bitにも、接続してコミュニケートできる。このことによって子どもたちの学習の進歩が自然な歩みになり、自分たちの創造力を表現したいという子どもたちの意欲に、さまざまな実現方法が与えられる。
BBC Newsの報道によると、Micro Bitの生産は一度だけだ。100万台作ってイギリスの11歳の学童に今年の秋配布したら、それで終わりだ。
それはBBC Microのときのように、私企業を怒らせないためだろう。数年前、民放数局とオンライン学習企業の非公開の会議を取材したことがあるが、そのとき最悪の敵として叩かれていたのがBBCだった。彼らの実際の言葉遣いは、もっともっとひどかったんだけど。
BBC LearningのGareth StockdaleがBBC Newsの画面でこう言っている: “BBCの役割は、問題に照明を当てて照らしだすだけだ。それにみんなが注目して動き出したら、うちは引っ込む。市場には参入しない”。
でも、Micro Bitに投じられる教材やコンテンツの量は膨大だ。BBCはイギリスの納税者のお金で成り立っているし、しかも今回は25社あまりの企業からの協力がある。それほどのプロジェクトのハードウェアサイドをたった一年でやめてしまうのは、明らかに、お金の無駄遣いではないだろうか。ただしもちろん、もうすぐローンチするPI Topのような、コンピューティング教育のスタートアップたちは、BBCが出しゃばるのは最初の1年でやめろー!と叫ぶだろうけど。