乳がんの早期発見精度を99%以上に向上させた、日本発のAI開発スタートアップ
東京を拠点に、自動車産業、製造業、ライフサイエンスの分野で世界的に活躍するAI開発のスタートアップがある。ディープラーニングを中心とした機械学習技術を利用してIoTにおけるソリューションを提供し、トヨタ自動車やファナックといった大手と協業するPreferred Networks(プリファード・ネットワークス、以下PFN)だ。2016年7月には、DeNAとの合弁会社PFDeNAも設立している。
そのPFNが1月にサンフランシスコで開催された「RE.WORK Deep Learning Summit 2017」で、ディープラーニングを利用して乳がんの早期発見精度を99%以上に高める技術を開発したと発表している。
PFN創業者で代表取締役社長の西川徹氏は、PFNの母体となるPreferred Infrastructure(プリファード・インストラクチャー、以下PFI)を2006年、大学院在学中に設立。PFIの創業メンバーはACM-ICPC(国際大学対抗プログラミングコンテスト)世界大会に、西川氏とともに出場したメンバーだ。PFIでは、情報検索、自然言語処理、機械学習、分散システムなどの技術を用いたソフトウェア開発を行ってきた。
IoTの発展にともない、ビッグデータを処理する技術としてのディープラーニングに対する取り組みを加速させるため、2014年3月にPFIからスピンオフして設立されたのがPFNだ。PFNでは2017年2月現在、日本電信電話(NTT)から2億円、ファナックから9億円、トヨタ自動車から10億円の出資を受けており、自動車業界や産業用ロボットの分野ではトヨタやファナックと業務提携して、産業IoTやロボティクスに応用できるAIの開発を行っている。
PFNでは今回の発表に先立ち、2016年10月にPFNがん研究所を設立。ディープラーニングなどのAI技術を生かし、ゲノム解析による個別化医療の実現に向け、新しいがん診療法の確立などを進めると発表していた。また、2016年11月には国立がん研究センター、産業技術総合研究所と、AIを活用した統合的がん医療システムの開発プロジェクトを開始。国立がん研究センターに蓄積されている膨大かつ詳細な臨床データや、ゲノム、画像情報や血液など網羅的な生体分子情報、疫学データ、そして文献情報といった多種多様な情報をAIを利用して統合的に解析し、個人に最適化された医療を提供できるようながん医療システムの開発と実用化を目指す、としている。
今回発表された技術では、血液やゲノムなどの解析データをAIに総合的に学習させることで、乳がんの早期発見精度を従来の8割程度から99%以上へと大きく向上。約5000の症例で高い精度を確認できた。PFNによれば、数10種類のがんへ応用できるメドも立っていて、実用化すれば、わずかな血液から従来より安く精度の高い検査が可能になるという。PFNでは、2017年中に臨床試験を開始し、2〜3年後の実用化を目指すとしている。