ストックフォトShutterstockの中国検閲問題はハイテク企業が対中関係を見直すべき契機
あまりに強烈な印象を残すために1枚の写真がその時代の象徴となることがある。1989年の天安門事件の際に無名の青年が戦車の隊列の前に立ちふさがっている写真がその1つだ。フォトグラファーの Jeff Widener(ジェフ・ワイドナー)氏はこの写真で軍隊によって強権的に自由を弾圧しようとする中国の支配体制とそれと戦う市民の姿を世界の目に焼き付けた。
この写真は「インターネットの万里の長城」と呼ばれる中国の巨大検閲システムの内側でほとんど見ることができない。「無名の反逆者」ないし「タンクマン」の写真がブラックホールに投げ込まれ、中国の十数億人の記憶から消されたのはジョージ・オーウェルの小説「一九八四年」そのままだ。
Baidu(百度)などの中国の検索エンジンが政治的検閲を受けていることは今ではよく知られている。売上の大半を国内で上げている中国企業が、中国共産党によって定められた法や規則に抵触しないよう細心の注意を払っていることは、賛否は別として十分理解できる。
しかし現在問題になっているのは検閲に従い、協力しているのが中国企業に限らないという点だ。検閲協力企業には西側のハイテク企業が多数含まれている。しかし自由主義国の企業の社員は中国の反自由主義的政策の強制を助けるような作業をすることに強い不快感を抱いている。
最近の例の1つはストック写真を提供するShutterstockだ。同社は中国の「グレート・ファイアーウォール」検閲システムに協力したことが暴露されて強い非難を浴びている。先月、ベテラン・ジャーナリストのSam Biddle(サム・ビドル)氏がThe Interceptに掲載した記事によれば、Shutterstockは自由主義的価値を守ろうとする従業員と上り坂の広大な中国市場でなんとしてもシェアを獲得したい経営陣の間で深刻な分裂に見舞われているという。
ビドル氏は「Shutterstockが検閲機能を実装したことは社員の間に即座に強い反発をもたらした。180人以上のShutterstock社員が検索ブラックリストを作製する機能に反対する請願に署名し、中国市場でシェアを獲得するために自由主義的価値を放棄するものとして会社の姿勢を批判した」と書いている。
Shuttersotckの方針はこの請願でもまったく変わらず、LinkedInのプロフィールによれば、同社にフロントエンドのデベロッパーとして10年近く勤務したというStefan Hayden(ステファン・ヘイデン)氏が辞職するだけに終わった。
Today is my last day at Shutterstock.
I’ve been here for nine years but when an ethical dispute remains unaddressed and I have the privilege of being able to move on and I am proud to. https://t.co/K5131k0UyL
— Stefan Hayden (@StefanHayden) December 6, 2019
今日は私のShuttersotock最後の日となる。ここで9年間働いてきたが、倫理上の見解の相違が解決しないため会社を離れることとした。
しかしこの問題が政治的時限爆弾であることはShutterstock自身も認めざるを得なかった。同社が最近、SECに提出した年間財務報告によれば、重要リスク要因として「検閲機能」と「中国市場へのアクセス」を挙げている。
【略】
つまりこれがカギだ。「市場アクセス」のためならShutterstockは同社がよって立つ基盤である映像コンテンツへの自由なアクセスを犠牲にしてもいいというわけだ。これはストック写真を提供するSutterstockだけに限った問題ではない。この数週間、中国に対する姿勢が激しく批判されているNBAもこうした状況に置かれているのだろう。
Shutterstockの社員が自由とデモクラシーのために立ち上がったのは素晴らしいことだ。たとえ社内で十分な支持を得られなくとも、そうした価値をもっと重視する会社に移ることはできるはずだ。
残念なことに、ドルと元を追求するのに夢中でそれが自身のビジネスの根本的な価値を蝕むことを考ない企業、特にハイテク企業が多すぎる。売上と倫理の間に矛盾が起きればをそのつど慎重に比較衡量することが企業の方針とならないかぎり、この腐食は蓄積する。そうしてShutterstockが直面しているような困難に行き当たるだろう。
中国経済の急成長によって倫理問題の困難も一層拡大された。自由主義経済の企業が中国大陸でビジネスをする際に求められる根本的価値に関する内省と敏感さは新たなレベルに高まったといえる。しかし多くの企業の経営陣はこうした価値とそれが社員、株主にもたらすすリスクに関してきわめて貧弱な知識しか持っていないようだ。
今年初め、Google(グーグル)に中国問題が起きたときに「インターネットが社会の他の要素と切り離されたテクノロジー分野だという考えは100%死んだ。シリコンバレーの企業、社員には倫理的にものを考えるという困難が挑戦が待ち受けている。我々の行動はすべてなんらかの意味で妥協だ。新しい価値を創造すること―これこそシリコンバレーのスタートアップの環境でもっとも重要とされることだが―この創造そのものが著しい不平等の源となっている」とコメントした。
私は中国から撤退したGoogleの決断に全面的に賛成したが、Googleの正しさも相対的なものだ。第一、現在決定を迫られたのであれば決定は違ったものになっていただろう。またGoogleの行動があらゆる面で非の打ち所がないというつもりもない。しかし追求すべき価値が何であるかについて考えてきた点では他の多くのハイテク企業をしのぐと思う。
米国企業はそのビジネスを可能にしている米国社会の自由主義的価値を守るために全力を挙げるべき時期だ。.妥協を重ねていけば最後には守るべき価値をすっかり失ってしまうだろう。
中国は無視するにはあまりに巨大な存在だろう。しかし、いかなる企業も自由かつ民主的な社会を守るという根本的な責任を無視してはならない。 「無名の反逆者」が戦車の隊列の前に立ちふさがることができたなら、米国企業の経営陣は社員ととも倫理的に正しい諸価値を守る隊列の先頭に立つことができるはずだ。
画像:: Ashley Pon/Bloomberg/ Getty Images
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(翻訳:滑川海彦@Facebook)