トヨタ、ボッシュ、ダイムラーが中国の無人運転の未来に賭けてMomentaの550億円のラウンドに参加
上海近郊の歴史ある街、蘇州。高速鉄道の蘇州北駅の向かいにある斬新なM字型の建物は、通りすがりの人の目を引く。ここは、中国の自動運転スタートアップ、創業5年のMomenta(モメンタ)の本社である。
静かな運河とクラシカルな庭園で有名な蘇州も、他の主要な中国の都市と同様に、補助金付きのオフィスと政策支援を提供してハイテク企業を誘致しているが、Momentaの事例は上々のようだ。同社の企業価値は2年間で10億ドル(約1090億円)を超え、中国で最も資金力のある自動車会社の1つとなった。Momentaには、Kai-Fu Lee(リー・カイフー)氏のSinovation Ventures(創新工場)、蘇州政府、メルセデス・ベンツのメーカーであるDaimler(ダイムラー)まで、目を見張るような投資家が名を連ねる。
関連記事:中国初の自動運転ユニコーン企業Momentaは利益よりもデータを追う
Momentaは最近、5億ドル(約550億円)に迫る大規模なラウンドを完了し、資金調達総額は7億ドル(約760億円)を超えた。同社の事業開発責任者であるSun Huan(サン・ファン)氏によると、この投資は同社の国際的な拡大に向けた重要なステップであるという。ファン氏は数カ月後にメルセデス・ベンツの本拠地であるドイツ・シュトゥットガルトに向かい、Momentaのヨーロッパ初のオフィスを開設する予定だ。
今回の資金調達ラウンドはシリーズC。中国の国営自動車メーカーであるSAIC Motor(上海汽車)、トヨタ自動車、Bosch(ボッシュ)が参加しており、伝統的な自動車ブランドがスマートドライビングの将来を確信していることが伺える。
Momentaの創業者兼CEOであるCao Xudong(曹旭東)氏は「自動車業界は、現在のTesla(テスラ)のマーケティングに対抗するために、もっと優位に立つ必要があります。そのため自律走行が注目されているのです」という。
このラウンドを主導した金融投資家は、シンガポールの政府系ファンドであるTemasek(テマセク)と、Alibaba(アリババ)の創業者であるJack Ma(ジャック・マー)氏のYunfeng Capital(ユンフェンキャピタル)。さらに、メルセデス・ベンツAG、Xiaomi(シャオミ)創業者のLei Jun(レイ・ジュン)氏のShunwei Capital(シュンウェイキャピタル)、Tencent(テンセント)、Cathay Capital(キャセイ・キャピタル)、そして非公開の機関数社が参加した。テンセントとアリババ(またはその関連会社)が共同で投資を行うのは珍しい。
実用的であること
多額の資金注入があったにもかかわらず、曹氏は「自律走行企業はもはや資金調達だけに頼ることはできない」と語る。
資本集約的な自律走行車業界では、大規模な資金調達が一般的である。Momentaの国内ライバルであるPony.ai(ポニーai)は5年以内に10億ドル(約1090億円)以上を集め、創業4年WeRide.ai(ウィライドai)は5億ドル(約550億円)以上を集めている。Momentaと同様、この2社も大手自動車メーカーからの投資を獲得している(ポニーaiにはトヨタ自動車、ウィライドにはルノー・日産・三菱自動車アライアンスが出資している)。
関連記事:中国の自動運転技術スタートアップWeRideがバスメーカー宇通客車から207億円を調達
Momentaは、最新の企業評価額を公表していない(参考までに、ポニーaiは11月の資金調達ラウンドで53億ドル(約5800億円)を集めている)。
Momentaは、同社の「二本足」ビジネスモデルに自信を持っている。本格的な無人運転車(「レベル4」と呼ばれる)にリソースを集中する同業他社とは異なり、Momentaは半自動運転のソフトウェアを自動車メーカーに販売する一方で、大量導入にはまだ数年かかる先進技術にも投資している。
Momentaは、自社で車両を保有するのではなく、提携先の自動車メーカーからデータをクラウドソーシングすることで経費を抑え、数十億ドルのコスト削減に貢献している、と繰り返す。同社は、大規模な走行データを蓄積し、自己修正システムでアルゴリズムを微調整している。データが多ければ多いほど、自律運転の性能はアップする。
曹氏は「フライホイール効果だ」という。Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏がアマゾンの成長を説明するために使った、ハイテク業界の有名な言葉だ。
ドライバーの習慣
TechCrunchが行ったテスト走行では、安全のためにドライバーが同乗していたが、運転に介入することはなかった。Momentaを搭載した車は、信号無視や放し飼いの犬、速いスクーター、無謀なトラック運転手の中、蘇州の街を通り抜けた。高速道路の入口でスピードを落とすと、他の車が横をすり抜けていく。ゆっくり走っているように感じたが、実際には人間が運転する他の車が制限速度の40km/hを超えていたのだ。
同乗したMomentaのR&Dエンジニア、Jiang Yunfei(ジィァン・ユンフェイ)は「ドライバーによっては、自律走行車にもっとアグレッシブに走って欲しいと思う人もいると思います。個人のスタイルに合わせて学習するシステムも検討しています。もちろん、交通ルールを守ることが条件ですが」と語る。
ダッシュボード横のタブレットには、汎用品のセンサーで、車が道路上の何を見て、何を予測しているのかが表示されている。「予測するにはデータが必要です」とファン氏はいう。「予測はデータに依存しています。自分たちで車両を作ると、データドリブンなアプローチを維持するのに大きなコストがかかってしまいます」。
Momentaは、中国都市部の道路でロボットタクシーの試験運用を行う企業パートナーである。2022年には、自動車メーカーと共同で運営するロボットタクシーの一部では、安全のためのドライバーが不要になり、2024年にはすべての車両がドライバー不要になることを目指している。その時点で、Momentaの人件費は大幅に軽減され、車両あたりの営業利益率はプラスに達するはずだ。
関連記事:自動運転ユニコーンAutoXが中国初のロボタクシーのテストを深センでスタート
グローバルな自動化
Momentaは創業以来、公の場で目立つことなく、投資に先立って行われたトヨタ自動車との高精細地図に関する提携を除き、顧客について語ることはほとんどなかった。曹氏が明かしたのは、中国、ドイツ、日本の自動車メーカーやティア1サプライヤーと「深い協力関係」を築いたということだけだ。
2021年末までに、複数の顧客がMomentaのソフトウェアを搭載したミドルクラス~ハイクラス車両の量産を開始する予定だ。また、2024年~2025年までには、Momentaのソリューションが数百万台の自動車に搭載され、走行データが安定的に供給されるようになるだろう。
「モーターやバッテリーはどこもほぼ同じなので、高級車ブランドの差別化にはもはや電気自動車だけでは不十分です。今後、差別化の鍵となるのはインテリジェンスです」と曹氏は話す。
地政学的緊張や米中の技術的分断が続く中、中国企業が直面する課題を懸念しているか、という質問に対し、営業・マーケティング担当副社長として入社したばかりのJijay Shen(ジジェイ・シェン)氏は、このような状況は「コントロールできない」ものであり、新しい市場に参入する際には常に「規制遵守」が優先されると述べた。
Huawei(ファーウェイ)に10年以上在籍し、以前は同社のアイルランド事業部CEOを務めていたシェン氏は「人類がこの10年間で大きな技術的進歩を遂げることができたのは、まさに各国の技術系企業がお互いに協力して築き上げてきたからです」と語る。
「しかしながら、この地政学的緊張が要因となり、多くの市場が短期的には自給自足を検討し始めるでしょう。私にはどちらが良いか結論付けることはできませんが、エコシステムやサプライチェーン全体で、自給自足と相互協力のどちらが良いかを考える必要があると思います」。
カテゴリー:モビリティ
タグ:Momenta、資金調達、中国、自動運転
[原文へ]
(文:Rita Liao、翻訳:Dragonfly)