第二幕がスタートしてヤフーは変化するのだろうか

誰もが知ることであるが、日本においてインターネット産業の頂点に立つのはヤフージャパン(以下ヤフー)である。売上や利益規模で見ても、たとえば直近の2012年3月期第3四半期(2011年10月から12月)だけでも売上は765億円、経常利益は423億円だった。楽天の同時期の売上1,094億円には下回るが(楽天のインターネット事業は747億円なのでそれは上回っている)、経常利益は楽天の220億円を上回っている。あるいは現在もっとも勢いのあるDeNAやグリーよりもこれらの数字は上である。そして時価総額は1兆4,876億円を超え、いまなお産業の中では1位に君臨する。月間でのアクティブなユーザーID数は2,400万を超えている。これはmixiよりも上だ。

なのにもかかわらず、ヤフーはTechCrunch Japanの読者からすればきっと退屈な企業に写っていたかもしれない。なぜならばヤフーからは新しいテクノロジーやサービスもイノベーションも見えてこないからだ。もちろん、これだけのビジネスをさばくのには相当なエネルギーがあるのかもしれないが、それは外からは魅力的なものには見えなかった。ついでに言えば、業績の成長率も鈍化していた。それは巨大であるが故のジレンマだったのかもしれない。

この数年にしても、新規事業の地域情報を統合したYahoo!ロコも好調とは言えないし、それ以前にもソーシャル事業のYahoo! Daysなどの失敗もあった。もっと言えば直近ではスマートフォンなどの新しいメディアへの対応も出遅れている感はある。もちろん、それは本家である米ヤフーのごたごたに引きずられているることもあるのだろうが、以前に作られた事業を維持させるだけで、ここ数年はその成長余力に頼ってきた感もある。主力の検索事業や検索連動広告もライバルのGoogleのテクノロジーを採用したのは世間をアッといわせたが、もはやライバル企業に頼ることで事業を維持させるのは、ヤフー自体が時代を先取りできない企業となった象徴的な出来ごとだったように思える。

昨日、ヤフーが発表した経営陣の刷新はそういった背景もあってのことなのかもしれない。驚くべきは、取締役も執行役員もそのほとんどすべてが新任であり、本当の意味で経営体制を一新したことだ。取締役と事業の執行役を明確化しているが、それまで7人いた執行役員の中から再任されたのは、今回CEOになる宮坂学氏と運用技術を支えるオペレーション統括本部長の西牧哲也氏の2人のみで、新たに執行役員となった7人はすべて新任である(つまり残りの5人の執行役員はすべて退任になる)。取締役も代表取締役社長CEOの井上雅博氏をはじめ執行役員を兼ねるCOO、CFOが退任することになる。業績が決して悪かったわけではないのにだ。僕は経済評論家でもないので他社の状況を詳しく知ることはないが、上場企業としてこれだけの大英断をした会社も珍しいのではないかと思う。この人事は4月1日よりスタートすることになる。

宮坂氏は現在44歳でヤフーには1997年に入社している。メディア事業部長を経て、2009年にはショッピングやオークション、ゲームなどのコンシューマ事業統括本部長に就任している。ある関係者によれば、宮坂氏は現在のヤフーの執行役員の中ではもっとも人望があり、次期社長の声があがっていたと言われている。「若返り」を考えたときにタイミングが今かは別として、社長にもっとも近かった人物なのかもしれない。宮坂氏は4月1日に執行役員CEOとなり、6月1日より井上氏に変わり代表取締役社長を務めることになる。

そして、今回、執行役員でCOOとなる37歳の川邊健太郎氏はこの業界に古くから精通している人であれば知っているように、電脳隊の代表取締役社長を務め、その後、PIMとの合併を果たし、2000年にヤフーがPIMを買収することで、ヤフーの一員となっている。川邊氏はYahoo!ニュースなどのメディア事業に携わり、2009年にはUSENから買収した映像配信のGyaOの代表取締役社長に就任している。GyaOは川邊氏の就任後に、民法キー局や電通、博報堂との資本提携を果たし、黒字化を達成している。そういったビジネス手腕を買われてのCOOの大抜擢だったのだろう。前出の関係者によれば、ヤフー社内ではインターネットの知識とビジネスの手腕がもっともバランスがとれた人物だそうだ。

今回もっとも注目すべき人事は新たな役職のチーフモバイルオフィサーとなった村上臣氏かもしれない。村上氏は川邊氏と同じく電脳隊の創業メンバーで、その後、ヤフーに加わっている。しかし、昨年にヤフーを退職し、電脳隊の創業メンバーでフラクタリストの創業者であった田中祐介氏のピドの取締役となっている(ピドの取締役は兼任するのだとTwitterで語っている)。今回の人事発表で村上氏がヤフーに出戻ってチーフモバイルオフィサーという新たな役職に就いたことは、ヤフーのスマートフォンへの取り組みを本格化させる意味があるのだと推測できる。村上氏はヤフーではYahoo! Everywhere構想でのスマートフォンやタブレットなどへの対応を指揮をしていた人物であり、再度、役割も新たにその任務を担うことになるのだろう。

インターネットはつねに変化している業界で、もはや3年前がどうだったかを思い出すことすら難しくなっている。その変化の早い業界で業界をリードしていくためには、新しい考えや経営判断や実行のためのスピード感、なによりも若いユーザーたちにどうやってアピールしていくかという時代感覚と技術力が重要となってくる。もちろん、創業時代から井上氏のもとでヤフーがこの何年も好業績を続けられたのは彼の手腕であるだろうし、それは評価されるべきなのだろう。ただ、リーディングカンパニーであるがゆえに、チャレンジよりも信頼を重んじたサービスを進めた結果、われわれが――少なくともインターネットの進化を愛する人たちにとっては、わくわくするようなできとごはもう何年もヤフーにはなかったように思う。Tim O’ReillyがとなえたWeb 2.0はすでに7年も前のことだが(Web 2.0なんて言葉を使ったのは久しぶりだ)、ヤフーは今なおYahoo! 1.0のビジネスで成長してきた感がある。だから第二幕を始めるために、経営陣を若くさせる必要があったのだろう。

だが、経営陣の若返りだけがヤフーの新たな成長を生むのだろうか。すでに組織の中で硬直化した社内体制や社員の意識がイノベーションを起こせない要因なのかもしれない。米国のヤフーはもう何も残っていない。そもそも果たしてヤフー自身が変化することを望んでいないのかもしれない。広告をはじめとしたビジネスは巨大で他社が太刀打ち出来ないものも多い。変化によって高収益体制がくずれるかもしれないのであれば、それを実行する必要すらないのかもしれない。それは外部からは眼に見えないことだが、今回の第二幕でヤフーは果たして変化するのだろうか。