英国は大手テック企業を規制するにあたり画一的なアプローチを採用しない方針

大手テック企業がデジタル市場に与える影響を専門に監視する部門が、英国の競争監視機関に2021年4月新たに発足した。その部門の責任者は、同部門に法的権限が付与され、問題のあるプラットフォームに対して制裁措置を取り、ある場合には何らかの形でそのプラットフォームを分割する命令を下すこともできる権限を得た後の運営方法について、含みを持たせている。

英国政府は2020年11月「勝者がすべての利益を得る」ようなネットワーク効果の動きなど、デジタル市場が抱える課題に取り組む「競争促進」体制を確立するとして、大手テック企業を規制する意向を表明した。

ただし、この体制が適用される時期について、英国政府は「議会の承認後」と声明を発表するにとどめている。

EUから脱退した英国は、EUとは異なる独自のアプローチでデジタル規制を施行しようとしている。EU議会では最近、EU全体のデジタルサービスに適用される主要なルール(デジタルサービス法)とテック企業の最大手に対する事前要件(デジタル市場法)を提出した。

また、EU議会はリスクの高いAIの応用を規制する法案も提出しているが、英国では、オンライン安全法案の審議中だ(2021年中に法案が提出される予定)。このように現在、さまざまなデジタル関連法案が新たに作成されており、英国とEU議会が大筋で合意しないかぎり、両者の規制が重複して混乱を招き、逆効果になる可能性もある。

関連記事
欧州がリスクベースのAI規制を提案、AIに対する信頼と理解の醸成を目指す
2021年提出予定の英国オンライン危害法案の注意義務違反への罰金は年間売上高10%

英国とEUのアプローチの相違は、今後も続くと予測される。英国の議員は法案の策定に際して、国際コミュニティとの交流を維持し続け、他国で形成されているインターネットプラットフォームに対する規制と英国のデジタル規制が、(法律の条文は異なっていても)考え方では一致するようにしたいと考えているにもかかわらずだ。

英国は2021年4月初めにDigital Markets Unit(DMU、デジタル市場部門)を開設した。DMUに法的権限を付与する法案策定について政府を支援し、将来的には英国の大手テック企業を監視する機関として機能するためだ。

関連記事:英国でテック大企業を監視する新部署「DMU」発足、デジタル分野の競争を促進

DMUの長官Catherine Batchelor(キャサリン・バチェラー)氏は4月23日のカンファレンスで、DMUが採用する今後のアプローチに加えて、競争を阻害する要因が多いデジタル市場で競争を促すための各省庁の目標を達成するために、DMUが必要とする権限について政府に進言した内容について答えた。

バチェラー氏は問題の概要を説明した上で、市場の動きが変化しているため、デジタル市場を規制するために新しいアプローチが必要になっていると述べた。「小さなスタートアップ企業や大学のキャンパスから始まった企業が、今やグローバルな巨大企業になっている」現実に触れ、大手テック企業は、市場を支配する影響力を持っていると述べた。ユーザーデータの利用、プラットフォームビジネスにおけるネットワーク効果と規模の経済性など、デジタル市場の特性の結果として生まれる影響力だ。エコシステム企業は、データやスケーリング、ネットワーク効果の相互作用を活かしてライバル企業を買収し、その強力な地位をさらに拡大強化することで、その中核となるサービスを基盤としてビジネスを拡大していると説明した。

「このように展開されるビジネスの危険性を不思議に思われるかもしれませんが、実は毎日の生活と大いに関係があります。大手テック企業はその立場を利用し、大手テック企業に依存する消費者と企業の弱みに付け込んで利益を上げています。マーケットプレイスで商品やサービスを販売するための手数料、アプリストアへのアプリの登録料、製品やサービスの広告料などを企業が払うことで、その金額が大手テック企業の収益になります」と同氏は説明する。

一方で消費者は、無料のデジタル商品やサービスに対して、注意を向けることやデータを提供するという形で代価を「支払っている」可能性がある。そのようなかたちでユーザーがデータを提供し、その代価として何らかのサービスを利用することが果たして「公正な取引」なのかどうかという点について、バチェラー氏は懸念を表明している。

同氏は、大手テック企業が「自己防衛的な」戦略として採用し、問題となっている「自己優遇」について指摘し、これを企業側から考えてDMUが今後取り組んでいきたい課題とした。「大手テック企業がこの戦略を採用すると、デジタル経済の動きが全体的に鈍くなります。新しいテック企業はこうした状況を切り抜けることができず、既存の企業のように成長できなくなります」と同氏は続ける。

デジタル市場で採用される不公正な戦略を既存の競争法で取り締まる場合「事前に防止できない」ことが問題だと同氏はいう。DMUではこの点を考慮して、最初からこのような戦略を企業が実行できないようなルールを設定することを推奨している。

DMUではその一方で、過剰に規制しないことにも尽力しているという。EUのDMA法案と異なる点として、規制の対象となるプラットフォームに対して「許される行為と許されない行為」のリストをすべて一律に適用するという方式は採用していない。

一律のルールを作らずに、市場や企業の独自性や多様性を考慮して、特定のプラットフォームのみを要件の対象とする柔軟性を目指すという。

間もなく適用される競争促進体制で規制の対象となる企業について、DMUは「証拠ベースの査定」を推奨している。この査定では、会社が「戦略的市場地位(SMS)」がある、つまり「その地位が定常的である」かどうかを定義すると同氏はいう。

「DMUが推奨したのは、ある会社を競争促進体制の対象とする上で、その会社の市場支配力が確立されているか、その市場支配力によって戦略的地位を獲得しているかどうかを査定する必要があるという点です。我々の注目する要因は参入障壁や拡大障壁など、地位が確立される可能性がある要因です」と同氏は続ける。

「今までにないような新しい要素として、戦略的地位が追加されました。戦略的地位という用語には、その会社の市場支配力がどれほど広範におよび、重大な影響があるかという意味があります」と同氏は付け加える。

バチェラー氏はさらに、戦略的地位がもたらす最終的な結果について、次のような例を挙げて説明している。まず、企業規模が大きくなることで、その企業の影響が大きく広範に及ぶようになる。次に、その会社が、顧客にリーチしようとする企業にとっての重要なアクセスポイントとして機能するようになる(EU議会がDMAで使用した「ゲートキーパー」の役割に相当する)。あるいは、その市場支配力を活用したり、中核市場から隣接市場へ支配力を拡大したりするようになる、などの例がある。

DMUは、このSMSテストを規制当局が実施することを推奨した。規制当局はSMS企業に該当するかどうかを判定するために、さまざまな方面の意見を聞き、さまざまな見方を検討する。このため、判定までに最大で1年かかる可能性があることを同氏は示唆した。

DMUは加えて、いったんSMS指定された企業を、一時的にSMS企業として指定することも推奨した(期間として5年間を推奨したという)。

SMSテストの判定条件を満たす企業は、全面的に競争促進体制の対象になる。DMUはこの体制に、禁止行動規範を含めたいと考えている。規範はその会社に対して固有のものとなるが、法律に示されている全般的な目標(公正取引、選択可能性、信頼性、透過性など)を取り込みたいようだ。英国政府もこのアプローチを了承したようだ。

カンファレンスには、デジタル規制および市場担当副長官Harry Lund(ハリー・ランド)氏も出席した。彼はデジタル・文化・メディア・スポーツ省でデジタルポリシーに取り組み、新しい競争アプローチを作成している。

「強制できる行動規範がこの体制の基盤です。市場支配力(SMSステータス)が非常に強くユーザーが多い企業に対して、許される行為と許されない行為について明確な要求が記載される予定です。英国政府も原則として、競争推進のための介入を了承しています。極めて大規模な市場介入になる可能性がありますが、介入することで市場支配力の基盤となる部分に取り組むことになります」と同氏はいう。

ランド氏はまた、規制当局が「予測的にプラットフォームの行為を方向づけて、有害な行為を事前に回避する」ことがこの体制の全体的な目標であるとし、有害な行為が発生した場合の目標は、迅速に対応して既存の競争法での対応スピードを上回ることとした。

「DMUは、行動規範も設定できるようになります。SMSに指定されることで特定された、問題のある有害な行為の証拠に焦点を絞って設定できます」とバチェラー氏は続けた。

「政府への提言で強調した重要な要素には、さまざまなSMS企業の活動に合わせて、こうした行動規範を個別に指定可能にするという点があります。いろいろなSMS企業のさまざまな活動全般に対して、統一した行動規範を一律に適用することを推奨しているわけではありません。懸念されている特定の活動、あるいはその企業の特定のビジネスモデルに応じて、そうした行動規範を適用するかどうかの自由裁量が与えられるべきだと考えています」と同氏は続けた。この点が欧州委員会のアプローチとの明確な相違点であり、過剰規制または過小規制を避けようとするDMUの方針の一部でもあることを強調した。

「規制が必要な場合はそのまま規制を適用できると同時に、特定の会社については規制が不要な場合は規制を撤回できる」という考え方を、DMUは非常に重要だと思っていると彼女は付け加えた。

バチェラー氏によると、行動規範の策定とSMS指定を並行して進めることもDMUが提案した。これにより、ある会社のSMSステータスについての審議と、その会社に適用する行動規範の審議を同時に進めることができる。

行動規範に加えて、競争促進のための介入も提案した。これにより、その会社が強力な地位を獲得するようになった理由を問い直すことを意図している。その会社が事業を展開する市場で「自由で活発な競争」を促進することが介入の目的だ

「当該企業の地位が非常に強固なものであるという現状に対処するだけでなく、今後そうした状態にならないように状況を変えていくには、このような介入が極めて重要となります」と同氏は強調した。

このような業務を遂行できるように、DMUではさまざまな競争促進介入を提案している。具体的には、個人データ移転などに関するデータ関連の介入(消費者が自分のデータをプラットフォーム間でどこにでも移動できるようにする)、相互運用性、データへのアクセス(競合他社やサードパーティーのアクセス)、共通基準、分割による改善(必ずしも全所有権の分割を必要としない。たとえば社内の部門を分割するなど)がある。

「このような介入が非常に大きなものであるため、軽率に実施できないことを我々は認識しています。競争を促進するために介入するときの基本的な考え方は、DMUがまず証拠ベースのプロセスを実施して、市場で競争が少なくなっている問題を特定します。次に、提案する対策が合理的で、問題に対処する上で効果的な方法であることを確認する必要があります」と彼女はいう。

「このような対策を作成するために審議を重ね、テストなどを実施して、その対策が効果的で意図した通りの結果となることを確認できるように計画しています。こうした対策の重要性を認識すると同時に、対策が非常に効果的になる可能性も認識しており、このような過程が規制対策の極めて重要な部分であると思っています」。

SMS指定を受けた会社向けに、DMUは会社に合わせた合併体制も提案している。その中で、すべての意図的な取引と、特定のしきい値を満たす一部の取引を強制的に通知することについて、Competition and Markets Authority(CMA、競争・市場庁)への報告を義務づけるといった方法も考えている。

「自発性に任せるCMAの既存体制とは対照的です」とバチェラー氏は指摘した。提案されている取引が市場に及ぼす影響について、監視機関が検討できるという役割を確かめることが目的です。

合併に関しては「より厳格な立証基準」を適用することもDMUが提案したとのこと。これにより、大手テック企業が合併の際に、英国で規制当局の承認を得るのが非常に難しくなることになる(政府がこのDMUの進言を受け入れる場合)。

「我々が提言しているのは、競争に極めて大きな影響を与える合併が、可能性は低いものの頻繁に行われるということです。合併により、大きな損害が発生する可能性があります。テック関連企業の合併では、当該企業が非常に重要な地位にあるため、その合併によって競争環境が著しく阻害される可能性があり、大きな障害となります。我々は、当該企業が進める合併や買収を効果的に調査する際に、厳格な立証基準が非常に重要になると考えています」とバチェラー氏はいう。

規範の執行という点に関して、行動規範や競争促進介入に反する行為が確認された場合、DMUは企業に対して対応策を取れることが重要だと同氏は指摘する。

ただし、コンプライアンスの問題に取り組む際には、まず「参加型」アプローチを提案したという。つまり、あまり堅苦しくならずに当該企業と連携して、規制違反を取り締まらずに問題の解決に取り組むというやり方だ。

このアプローチがうまくいかない場合は、戦略を変更して要件に従うよう企業に命令する権限をDMUに与えることを進言している。それでも要件を無視し、意図的に規範に反する行為を続ける大手テック企業に対しては、その企業の年間売上の最大10%という「極めて厳しい」罰則をDMUが課すことができる権限を求めている。

ランド氏によると、英国政府には、新しい体制の提案および策定する際に、多くの優先事項があるという。例えば行動規範が特定の経済分野でどんな影響があるかを監視するようDMUに指示している。経済分野には、コンテンツ開発者やニュース発行者(CMAの市場調査とその他の研究により、競争上特別な問題があることがわかっている分野)などが含まれる。

デジタル市場での競争について、G7などの場で国際的に議論されることも求めている。「国際的な視点で考えることは本当に重要です。英国は孤立して経済活動を行っているわけではありません。ですから、意見をまとめ、対話を育み、独自のアプローチを策定している他国のパートナーとの協力関係を強化していきたいと考えています」。

審議は2021年後半に開始され、英国政府のデジタル競争に関するビジョンがまとめられ、DMUの専門家によるアドバイスに基づいて、体制に関する特別な提案が行われる(ランド氏によると、現在DCMSは、その他の情報筋からの助言を元に作業を進めているという)。

審議プロセスの終了後、DCMSから提出される法案で、この体制の最終的な詳細(違反時の罰則などの重要な項目も含む)が明らかにされる。

審議プロセスは2021年前半に行われる予定だが、法案提出の具体的な予定については明らかにされていない。ただ、早くても2021年後半になると思われるため、2021年中に法案が提出されると考えるのは現実的ではない。

DMUが実施できる可能性のある競争促進対策について、カンファレンスの質疑応答でランド氏は(同氏の言葉を借りると「かなり極端な例ではあるが」)、ユーザーのデータ収集方法に影響がある変更をデフォルトの設定に戻す(データを収集するにはユーザーに明示的にオプトインを求め、オプトアウトを要求しない)命令を例に挙げた。

この体制は「画一的なアプローチ」ではないと同氏は強調し「競争を促進するために自由に介入できるということは、特定された問題に的を絞って対策を講じることができるということです」と説明する。

大手デジタル企業が立ちはだかる時代に、競争ポリシーを再構成する作業は「複雑かつ広範囲で、新しい競争体制によって規制状況も大きく変わるため、適切な体制を構築することが本当に重要です」と同氏は付け加えた。

カテゴリー:その他
タグ:イギリスEUDMUCMA

画像クレジット:SOPA Images / Getty Images

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)