アップルのフェデリギ氏はユーザーデータ保護強化でのアドテック業界との対決姿勢を鮮明に
米国時間12月9日、Apple(アップル)のシニアバイスプレジデントであるCraig Federighi(クレイグ・フェデリギ)氏は、欧州議会議員、プライバシー規制当局に向けたスピーチでアドテック業界を強く批判した。AppleがiOSへのアプリ登録に際してユーザーが行動追跡を拒否できる機能を要件とする規約変更を行うと発表したことに対して、アドテック業界は「言語道断な」「誤った」主張をしているとフェデリギ氏は強い言葉で批判した。
Appleは2020年秋から、AppStoreにプライバシー強化を柱とするメジャーアップデートを行う予定だったが、大手広告主から激しい反発があったため2021年初頭まで導入が延期されている。
たとえばFacebook(フェイスブック)は、この改定がiOSでの売上の大部分をアプリ内広告ネットワークに依存しているメーカーに重大な悪影響を与える可能性があるだけでなく、Facebook自身の収入にも影響するリスクがあると警告した。
その後4つのオンライン広告ロビー団体がフランスのAppleに対して反トラスト法違反の申し立てを行い、優越的地位の利用による不当競争行為であるとしてプライバシー規約の変更の阻止を図っている。
Appleトップによる今回の発言は、絶対に後に引かない姿勢を表明したものだ。
フェデリギ氏は「オンライン・トラッキング」をプライバシー侵害の「最大の問題」と述べた。AppStoreに規約に含まれる予定のトラッキングの透明性(App Tracking Transparency)は「ユーザープライバシーの最前線」を示すものとなるとした。同氏はヨーロッパのデータ保護とプライバシー会議でのスピーチで次のように述べている。
プライバシー権、つまり個人データを自分の管理下に置く権利が現在の侵害されてたことはかつてありませんでした。プライバシーに対する外部の脅威が増大し続けるのに応じて我々の対抗するための努力も進化しなければなりません。
AppleのATT(トラッキングの透明性)規定の目的は、フェデリギ氏によれば「ユーザーを特定し追跡できるアプリ内情報を他社のアプリ、サイトとの間で共有する際にユーザーの許可が必要であり、またユーザーがその時期を決定できるようにすること」だという。
「ダークアート」と呼ばれるアドテック業界のユーザー追跡テクニックに対する市民的反対は、インターネット主流が不透明かつ途方もなく膨大な監視能力を持つようになるという点だ。
こうした監視社会は差別、弱者に対する恣意的操作、選挙干渉などリスクが含まれまれるという。
今回フェデリギ氏はCEOのTim Cook(ティム・クック)氏が2018年のヨーロッパのプライバシー会議で述べたビジョンの擁護をテーマとした。
大規模なデータ集中は、データを収集するのが誰であろうと、どんな意図であろうとプライバシーを危険にさらします。我々はAppleが持つユーザーデータをできるだけ少なくするよう努めなければならないと考えています。しかしこれと反対のアプローチを主張するものもいます。
一部のアプリ開発者はできるだけ多くの個人情報を集め、蓄積し、販売しようとします。その結果データとビジネスのある種の複合体が生まれます、怪しげな企業が人々の人生の最奥のプライバシーに潜入して何かを売りつけようとします。さらには人々を過激派にリクルートするなどさらに悪用するかもしれません。
クック氏は「データ産業複合体」を非難し、同時にデジタル規制に対するヨーロッパのプライバシー保護アプローチを称賛してEU議会に気に入られようとした。それ以後 EUの一般データ保護規則(GDPR)の下で合法であるような行動ターゲティング広告を実行するアドテックビジネス対する個人や組織からの批判が強まっている。
しかしEU各国の規制当局は、これらのアドテックの苦情に対してまだ執行措置を講じていない。Cookieによるユーザー追跡という大ビジネスを方向転換するのは明らかに容易な事業ではない。
アドテック業界ロビー団体は米国時間12月8日に欧州委員会の委員で競争行為担当者であるMargrethe Vestager(マルグレーテ・ベステアー)氏の発言に勇気づけられたかもしれない。OECDグローバル競争フォーラムに登壇したベステアー氏は欧州は反トラスト法執行にあたって「プライバシー保護が不当競争行為の言い訳として使用されないように警戒する必要がある」と述べた。ベステアー氏はドイツにおけるFacebookの「スーパープロファイリング」に対する訴訟への支持を表明したが、同時に規制改革においてプライバシー保護と競争の両立を促すような部分を「刺激的で興味深い」と評した。
フェデリギ氏は、欧州議員に、プライバシーが侵害される懸念がある場所に勇気もって留まるよう強く促した。同氏はEUで特に力のある政治的インフルエンサーの名前を挙げて賞賛し、こう述べた。
GDPRなどの規制は、今日ここにいるJourová(ヨウロバ)委員、Reynders(レンデルス)委員、他の諸氏によって実施されています。これらの規制を通じてヨーロッパはプライバシーに配慮した未来がどのようなものになるかのビジョンを世界に示しました。
またフェデリギ氏はGDPR方式の「米国版総合的プライバシー法」に対するAppleの支持をを繰り返した。これはクック氏が2年前に提唱したもので「一般消費者が自らについてのデータ収集を最小限に抑えることを可能にする法律」だ。この法律はデータがいつ、どんな理由で収集されているのか、またそのデータにアクセスし、修正ないし削除を求め、安全であることを求める権利を保障するものだ。
フェデリギ氏はAppleに対するアドテック業界の批判を一蹴しようとしてこう主張した。
すでに明らかに一部の企業はATT(やそのようなイノベーション)を阻止し、自分たちが人々のデータに勝手にアクセスする自由を維持しようと全力を挙げています。ATTはユーザーに対するトラッキングをコントロールすることに役立つものであるのに、それがプライバシー侵害のいっそうの拡大につながるというなどいう言語道断な理解しがたい主張をし始めている人々もいます。
我々は控えめに言っても、こうした主張に懐疑的であると言わざるを得ません。しかしいかに批判されようとそうした企業が自分たちに都合のいい誤った議論をすることを止めることはできません。我々はこうした主張の本質を世界に明らかにする必要があります。それはプライバシーを侵害し放題の現状を維持しようとする鉄面皮な試みです。
フェデリギ氏は、またEU議員に対してこう訴えている。同氏はATTが「デジタルプライバシーを守るeプライバシー指令の精神と要件、さらにその改正案にに沿ったもの」であると示唆した。改正案に触れたのはフェデリギ氏がEUの政策プロセスがしばしば立ち往生することを暗示したものだ。eプリバシー指令のアップデートは実は何年も前に提案されたまま進展していない。つまりAppleはユーザーのプライバシー強化を実効あるものにするにはEUの政治というスイッチではなくAppleの(iOS規約改正という)テクノロジー側のスイッチを押すことで行き詰まりが解消されるのだと微妙な表現で主張しているのだろう。フェデリギ氏はこう述べている。
ATTはeプライバシー指令と同様、自分のデータに何が起こるかについて情報に基づいた選択を行う力を人々に与えることを目的としています。今日ここにいる議員、規制担当者を始めプライバシーを擁護する諸氏が、こうした強力なプライバシー保護を支持し続けることを願っています。
スピーチの前半で、フェデリギ氏はもっとわかりやすい点にも言及した。Appleが2017年にSafariブラウザに追加したインテリジェントトラッキング防止(ITP)機能とATTを比較し、アドテックビジネスから今回と同様の反対があったにもかかわらず、以後毎年ビジネス全体の収入が増加したと指摘した。
ITPの際と同様、アドテックビジネスの一部は我々の努力に反対してロビー活動を行っており、ATTは広告をサポートするビジネスに大きなダメージを与えると主張しています。しかし業界は以前と同様、ただし侵害的なユーザー活動の追跡なしに、効果的な広告を提供するよう適応していくと期待しています。もちろん、一部の広告主やテクノロジー企業は、ATTが実現しないことを望んでいます。プライバシー侵害的なユーザー追跡がビジネスモデルである場合、透明性と顧客の選択は歓迎できるわけがありません。
フェデリギ氏はiOSユーザーの選択とプライバシーの拡大に反対する業界の動機を再び激しく批判した。
また同氏はiOSがアプリのユーザー行動追跡にユーザーの許可を必要とするよう規約を改正することは「現状からの大きな変化を意味します」と認めた。
この変化はiOSのデベロッパーにとって一時的には悪影響を与える可能性が高い。
しかしフェデリギ氏のメッセージは断固たるものであり、Appleはユーザープライバシーに関する規定の改正に同意できないデベロッパーに痛棒を振るう可能性があることを明らかにした。「来年初めに、すべてのアプリに新要件の遵守を求めます。明示的な許可の取得という要件を満たさずにユーザー追跡を行うアプリはAppStoreから削除されることがあります」という警告だ。
フェデリギ氏のスピーチには、まずデータとプライバシーを保護するための規制強化の方向を継続せよという欧州議員への訴えがあった。しかし同時に(固有名詞は挙げていなかったが)ライバル企業に対してに対しプライバシーと個人情報の保護に関してはAppleの主導に従えという微妙なアピールも含まれていたのは興味深い。フェデリギ氏はこう述べた。
我々は何ごとであれ単独で成功できるとは考えていません。プライバシー保護に関しては、ライバルが我々のやり方をコピーするのもいいし、彼らが独自の画期的なプライバシー保護手法を開発して我々が学ぶこともあるでしょう。これらは大いに歓迎すべきことです。
Appleはすべてのユーザープライバシー保護を強く支持しています。人々がApple製品を購入するのを見るのもちろんうれしいことです。しかし、もっとも優れたもっとも強力なプライバシー保護機能をめぐって企業間で激しい競争が繰り広げられることも望んでいます。
これは別の話になるが、多くのユーザーがアプリの追跡を拒否するならiOSアプリのベンダー各社は収益化のためにアプリ内サブスクリプションにいっそう頼らざるを得なくなるかもしれない。となればAppStoreの貼合に至る門を通過してAppleの金庫に入る金が増えることを意味する。
フェデリギ氏はエンド・ツー・エンド暗号化という厄介なパンドラの箱を開けるのが賢明だと考えている(かもしれない)EU立法者に対し穏やかに堅牢なセキュリティを構築することがまず最初に必要だと指摘した。
ここで関連ある情報はこうだ。2020年11月、欧州連合理事会のある決議草案がEU立法者がエンド・ツー・エンド暗号化を禁止しようとしているのではないかという議論を引き起こした。
公平を期すなら、理事会は単に「バランスの取れた」という用語を使っただけだ。「重大な犯罪やテロに効果的に対応しながら、通信のプライバシーとセキュリティを保護する暗号化の有効性を維持する」というコンテキストで「技術的、運用的、法的解決策を探求してサポートすると同時に、双方のバランスの取れたアプローチを探求する」のが新しい戦略とされた。そのためこの「バランス」の意味が問題となったわけだ。
また、エンド・ツー・エンド暗号化に対するヨーロッパのサポートが強化されるよう強く願ってます。Appleは、欧州議会が(加盟国政府によるバックドア要求を禁止し)eプライバシー規制はエンドツーエンド暗号化をサポートすべきだと主張したとき、Appleはこれを強く支持しました。今後もそうしていきます。
とフェデリギ氏は付け加えて「強い希望を抱いている」という基調でスピーチを締めくくった。
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カテゴリー: パブリック / ダイバーシティ
タグ:Apple、アドテック、プライバシー、GDPR、欧州委員会
画像クレジット:Apple
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(翻訳:滑川海彦@Facebook)