2021年提出予定の英国オンライン危害法案の注意義務違反への罰金は年間売上高10%

目下、議論の的となっているポピュリスト的な計画を、英国はさらに押し進めていくようだ。子供たちを危険にさらす可能性のあるオンライン上の違法または有害なさまざまなコンテンツを規制するというものである。2019年4月(未訳記事)に始まった同協議に対して英政府が出した最終的な結論は、「Online Safety Bill(オンライン安全法案)」を2021年の導入に向けて進めていくというものだ。

「チャイルドグルーミング(インターネット上で行われる性犯罪)やいじめ、ポルノグラフィなどの有害なコンテンツや活動から子供たちを守るため、技術プラットフォームはより積極的にならなければなりません。この法案は、未来の世代がインターネットの恩恵を十分に享受しながらも被害のリスクを軽減させるためのより良い保護措置となってくれることでしょう」。

「Online Harms(オンライン危害)」ホワイトペーパー(未訳記事)に関する協議への部分的な回答によると、英国の情報通信庁であるOfcom(オフコム)が今後の規程を施行するための機関として選出されたという。

米国時間12月15日に発表された計画によると、Ofcomは児童虐待、テロリスト関連、自殺促進などの違法なコンテンツにさらされている子供を保護するための注意義務を怠ったとみなされた企業に対して、1800万ポンド(約25億円)の罰金、もしくは全世界で年商の10%のうちどちらか高い方の金額の支払いを命じることが可能になる。

Ofcomはまた、規程を遵守していないサービスへの英国内でのアクセスをブロックする権限を持つというが、それが具体的にどのようにして達成されるかは明らかではない(またこの法律が、ブロックされたインターネットサービスに英国人がVPNを使用してアクセスするのを阻止するものなのか否かも不明である)。

英政府によると規制当局のランニングコストは、同法律の対象となる年間収益に基づくしきい値を超えた企業が負担することになるが、その支払いが今後どこで発生するかはまだ明らかではない(また、テック系大手企業やその他の企業が監視のためにどれだけのコストを捻出しなければならないかも明らかではない)。

オンラインでの安全の「注意義務」ルールは、Facebook(フェイスブック)のようなソーシャルメディアの巨人だけでなく、出会い系アプリや検索エンジン、オンラインマーケットプレイス、ビデオ共有プラットフォーム、インスタントメッセージングツール、さらには消費者向けクラウドストレージや、ユーザー同士が関わり合うビデオゲームまで、幅広いインターネットサービスを対象としている。

政府のプレスリリースによると、準プライベートメッセージングサービスと同様に、P2Pサービス、オンラインフォーラム、ポルノサイトもこの法律の対象となるとのことだ。

これにより、この法的要件が企業にエンド・ツー・エンドの暗号化を使用しないよう圧力をかける可能性があるかどうかという厄介な疑問が浮上する(たとえば堅牢に暗号化された違法コンテンツを監視できないことでペナルティを受ける場合もあるだろう)。

「この新規制は、英国に住む人々がアクセス可能なユーザー生成コンテンツをオンラインでホストしている世界中の企業や、オンラインで個人的または公に他者との交流を可能にしている企業すべてに適用されます」と英政府はプレスリリースで述べている。

このルールにはコンテンツや活動に対する責任のカテゴリーが存在し、トップティア(カテゴリー1)は「最大のオンラインプレゼンスと高リスクの機能」を持つ企業にのみ適用されているが、これは要するにFacebook(フェイスブック)、TikTok(ティックトック)、Instagram(インスタグラム)、Twitter(ツイッター)のことを指しているのだろう。

「こういった企業は『成人に身体的または心理的に重大な危害をもたらすであろうリスク』という観点からコンテンツや活動のリスクを査定する必要がある。そしてどのような種類の『合法的だが有害』なコンテンツがプラットフォーム上で許容されるのかを利用規約で明確にし、これを透明性と一貫性を持って施行する必要がある」と書かれている。

英政府の広報によると、カテゴリー1の企業は、オンライン被害に取り組むための措置について透明性報告書を公表することも法的に求められることになるようだ。

同法律の対象となるすべての企業は、人々が簡単に有害なコンテンツや活動を報告でき、またコンテンツの削除を申し立てできるような仕組みを構築する必要がある。

英政府は、英国企業の3%未満がこの法律の適用範囲に入ると考えており、「大多数」はカテゴリー2のサービスになると付け加えている。

言論の自由の保護も組み込まれる予定だ。政府はこの法律はニュースサイトの記事やコメント欄などには影響しないと伝えている。

同法には、企業の上級管理職に刑事制裁を課す規定も含まれる予定だ(二次法で国会が導入)。これについて政府は、企業が新規制に真剣に取り組まなかった場合には、権力を行使することを躊躇しないと付け加えている(Ofcomからの情報要求に「完全、正確、タイムリーに」対応しなかった場合など)。

同計画についてコメントしたデジタルセクレタリーのOliver Dowden(オリバー・ダウデン)氏は次のように述べている。「私はテクノロジーの大いなる支持者ですが、だからといってテクノロジーに規制が必要ないというわけではありません。今日、英国はオンライン規制に対するこれまでで最も包括的なアプローチで、オンラインの安全性に関する世界基準を設定しています。私達は新時代を迎えつつあり、テクノロジー企業は、子供や弱い立場にあるユーザーを保護し、この業界への信頼を回復し、言論の自由の保護措置を法的に制定するための説明責任を果たさなければなりません」。

「この釣り合いのとれた新しい枠組みは中小企業に不必要な負担をかけるものではなく、大手デジタル企業が従うべき強固なルールを設定し、現代テクノロジーの素晴らしさを存分に利用して私たちの生活を向上させるためのものです」。

別の補足声明でPriti Patel(プリティ・パテル)内務大臣は「ハイテク企業は公共の安全を第一に考えなければなりません。それができない場合、その責任をとることになるでしょう」と付け加えている。

OfcomのCEOであるDame Melanie Dawes(デーム・メラニー・ドーズ)氏は、より広範となったこの新監視権限を歓迎し、コメントを残している。「インターネットは大きなメリットをもたらしてくれますが、5人のうち4人がインターネットに関する懸念を抱いています。このことは、ユーザーを深刻な被害から保護するだけでなく、表現の自由を含むオンラインの素晴らしさを認識する賢明でバランスのとれたルールの必要性を示しています。私たちは、新しい技術とデータのスキルを身につけることでこの課題に備えて準備を進めており、議会が計画を最終決定する際には議会と協力して取り組んでいきます」。

英政府は法律の導入に先立ち、テロ行為やオンラインでの児童の性的搾取の防止に取り組むための企業向けガイダンスを提供するため暫定的な実践規範を米国時間12月15日に公表した。議論と精査のために長い期間を要するため、法制化されるのは早くとも2021年後半だろうといわれている。

オンライン上で「子供を守る」という名のこの政治的な取り組みは、タブロイド紙レベルの支持を得ることはできるだろう。しかし政府が思い描いている注意義務規程の広範な適用は、英国の技術セクターの大部分が多大な影響を受けるということもあり、プライバシーやセキュリティへの影響に関する連鎖的な懸念を含め、経済団体、起業家、投資家、法律や政策の専門家からの大きな批判を受けることになるだろう。

大きな被害を発生させているひと握りの巨大プラットフォームに焦点を絞るのではなく、小規模なデジタルビジネスにしわ寄せを与えかねないオンライン安全法案を推進するこの計画は、すでにテック業界からの批判を集めている。

スタートアップや英国のテックセクターを擁護するデジタル政策団体のCoadec(コアデック)は、この計画が起業家にとって「混乱に満ちた地雷原」だとして批判している。同計画はデジタル競争の促進とは逆行するもので、デジタル広告分野における市場の集中についての懸念に対応するために政府が最近発表した(未訳記事)他の措置を打ち消すことになると主張している。

「先週、政府はデジタル市場での競争を促進するために、CMA(Competition and Markets Authority、競争市場局)内に新しいユニットを設置することを発表しました。その数日後、政府はそれとは正反対の効果をもたらす危険性のある規制措置を発表しました」とCoadecのエグゼクティブディレクターであるDom Hallas(ドム・ハラス)氏は声明で述べている。「英国の投資家の86%が、ビッグテックへの取り組みを目的とした規制はテック系スタートアップにダメージを与え、競争を制限するような悪い結果につながる可能性があると述べています。この計画は競合他社に不釣り合いな影響を与え、法律を遵守するためのリソースを持つ大企業だけに利益をもたらす、混乱に満ちた地雷原になる危険性があります」。

同氏はさらに「英国のスタートアップは、より安全なインターネットを望んでいます。しかし、今回の提案はeコマースからシェアリングエコノミーまで、ソーシャルメディアとはかけ離れた幅広いサービスを対象としており、1年半近く前に政府が提案を発表した時と比べてターゲットが絞られているようには感じられません。政府がスタートアップの創業者を常に懲役刑で脅すのではなく、協力的に取り組んでくれるようになるまでは、我々側としては効果的な提案ができません」と述べている。

政府の提案におけるズレの1つに金融被害がある。詐欺や安全でない商品の販売などの問題はフレームワークから明確に除外されているが、これは政府がこの規制が企業にとって「明確で管理しやすい」ものでありことを望んでおり、またすでに存在するルールを重複して課してしまうリスクを回避するためと伝えている。

また英政府によると「リスクの低い」サービスの中には、法律が過度に負担になることを避けるため注意義務を免除される場合もある。

Eメールサービスも対象外となることが確認されている。

ソーシャルメディア上に掲載されたインフルエンサーによる宣伝など、ある種の広告は法規制の対象となるものの、広告主とフェイスブックやGoogle Adsなどの広告サービスとの直接契約を介して法規制対象のサービスに掲載された広告は「既存の規制でカバーされている」ため規制対象から除外されるという。あたかもアドテックの複占企業が有害な広告を掲載するのを、理由もなく許容しているかのようである。

結局のところ英国の既存の規制は、フェイスブック上やグーグルの広告ツールを介して見られるような暗号化された悪質広告の流れを止めるためにさほど大したことを行ってきたわけではない。そしてこの結果、たとえばフェイスブックや他の企業の行動を正してもらおうと消費者相談担当者によるキャンペーンが起きている(未訳記事)。

消費者団体のWhich?(ウィッチ?)は、オンライン安全法案の中で政府が金融詐欺に十分な注意を払っていない点を批判している。同団体の政策・アドボカシー担当ディレクターであるRocio Concha(ロシオ・コンチャ)氏は政府の発表を受け声明の中で次のように述べている。「政府がオンラインプラットフォームにはユーザーを保護する責任があると認識していることは好ましいことですが、もしオンライン上の詐欺が次期法案で取り扱われなければ、大きなチャンスを逃してしまうことになります。私たちの調査によると詐欺による金銭的、精神的な負担は非常に明白で、フェイスブックのようなソーシャルメディア企業やグーグルのような検索エンジンはユーザーを保護するためにより多くのことに取り組む必要があります」。

「偽の広告が表示されないよう管理を強化するなど、サイト上の不正コンテンツに対してオンラインプラットフォームにより大きな責任を課し、ユーザーが安心してオンラインを楽しめるようにする明確な計画が立案されることを期待しています」。

欧州連合の議員団は、違法で有害なコンテンツを規制するための汎EU政策パッケージを発表する予定だが、ここでのデジタルサービス法はオンライン上での違法商品の販売に対して取り組むとともに、オンラインサービス上の煩わしいコンテンツを報告するためのルールを統一することも提案している。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:政治イギリス

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(翻訳:Dragonfly)